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2020-03

「それがわしの名か?」 - 2014.10.31 Fri

 ディスペースでの食事のメンバーは移り変わりがあります。
 Kさん(仮名)は一ヶ月くらい一緒でもう退院されました。
 Kさんとのエピソードです。

 今月のある日、夕食時いつものように私がディスペースに行くと、その時のメンバーがもう座っていました。4人くらいです。
 食事が始まりましたが、オレンジのいつものお手拭きが見当たりません。私がそのことに気がついた瞬間、

「あれっ、オレンジのお手拭きがない」

と小さくもない声を出しました。まわりをキョロキョロすると、他の人には配られいてリュウにだけありませんでした。すぐにもらいに行こうと私が立ち上がると、隣りにの方にいたKさんが、

「わしのをどうぞ」

とオレンジのお手拭きを差し出してくれました。そういうわけにはいかず、

「いえいえそれはKさんのですのでお使いください。いま、もらってきますから」

と私は言い、何歩か歩き出した時また、

「いえいえ、私はいつもこのお手拭きは使っていませんので、どうぞお使いください」

と困っていた私の気持ちに入り込むようにKさんが。私はKさんと目と目を合わせ、そこまでおっしゃるのならと、そのお言葉に甘えさせてもらおうと思い、

「そうですか、それでは有り難く使わせていただきます、ありがとうございます」

と私が言い、使わせていただくことにしました。

 Kさんは何歳くらいでしょうか、80歳前後と思われる男性の方で、リュウよりも表情も良いように見え、もちろん姿勢もいいし、私にはどこが悪いのかわかりません。

 リュウの食事が始まり、しばらくして何かの拍子に私が立ち上がり、Kさんの視界に入ったと思われる時のことです。Kさんが私に向かって言った台詞に、私は凍り付いてしまいました。

「わしの目の前のコップになんて書いてある?」

と言うので、

「え?◯◯ ◯◯さんって書いてありますけど」

と私が不思議そうに言うと(自分の持ち物には名前が書いてあります)、

「それがわしの名か」

と言いました。それも悲壮感は感じらず、あっけらかんとした感じです。まるで、初めて見る物の名前を聞いている風です。例えば、「緑のトウモロコシ」があったとします。これは見たことがないので、「これは何?なんて言う名前?」とまわりの人に聞いている感じなのです。その質問に悲壮感もなにもないのがわかると思います。

 私はショックを受けてしまいました。実はこのようなショックは、M病院の前のS病院の時から少なからずあったことです。

 リュウとはまたちがう認知症で、認知症にもいろいろあるんだ。

 そして心配なことが。
 もしもKさんが、街に出て迷子になり、まわりの人に名前を聞かれても答えられないでしょう。


 Kさん、オレンジのお手拭き、ありがとうございました。助かりましたよ。これからもKさんらしさを失わず、お元気でお過ごしください。





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プロフィール

vanilla

Author:vanilla
「やさしいまなざし」は「Vanilla Web Site」の日記の部分です。

登場人物(平成28年11月現在)
 
佐藤リュウ(59歳)←夫
佐藤バニラ(永遠の20歳)←私
佐藤イブキ(社会人)←長男
佐藤ワタル(福祉施設通所)←次男

 夫佐藤リュウは、平成17年頃(48歳)より、物が二重に見える、手に力が入らない、全身が重苦しく感じる症状があり、会社勤務ができなくなりました。
 若年性のパーキンソン病の疑いとのことで、平成18年(49歳)より神経内科に通院し、平成19年にはパーキンソン病関連疾患と診断名が付きました。
 その後、平成22年 (52歳)、診断名が若年性の「進行性核上性麻痺」に変わりました。
 ずっと自宅より通院していましたが、平成24年4月に自宅外で転倒骨折し、手術入院となってしまいました。入院時、誤嚥性と思われる肺炎も併発していて、現在も入院中です。平成26年11月19日に胃瘻造設しました。
 夫が仕事ができなくなった平成17年時、上の子が小学校6年生、下の子が小学校2年生(多動と自閉で特別支援学級在籍)でした。
 私は、平成19年より、平日フルタイムで仕事しています。たくさんの方のお力をお借りし、生活しています。
 北海道在住です。

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